低エネルギー社会WGとは

私たちの活動

新しいコミュニティの必要性

「開発」に対して「環境」という対立する言葉がある。日本は1950年代半ばから1970年代初めにかけて高度経済成長を遂げた。この時期はまさに開発ラッシュであった。ところが一方で公害問題が起こり、都会ではスモッグや河川の水質汚染などさまざまな環境破壊が起きた。その意味で、日本人は過度の開発は環境破壊を招くのだということをしみじみと感じたわけである。しかし人間の成長したいという欲求は果てしなく、現在は開発途上国で環境破壊が激しくなりつつある。

意識としては、開発が「成長」であり、環境を守る意識は「抑制」である。成長には、GDPとか投入する資源の量とかその質とかいろいろな指標があるのだが、一方環境の度合いを表す指標というのは無かった。

CO2というのは、この環境の程度を表す指標のひとつとして我々前に現れたのである。CO2を削減し、低炭素社会を作りましょうということで、環境を守ろうという運動が盛んに行われるようになった。しかしこの運動は、従来型の社会を維持しながら、省エネルギーなどの技術によって実現しようという運動でもある。

ASPO(石油ピーク研究協会)が発表している今までの石油の生産量と、今後の予測を現したデータは、1970年代の石油ショックは米国の石油ピークが原因であり、その後湾岸戦争が起きたこと、また最近の原油価格の高騰と世界金融危機は、北海油田が石油ピークに達し、中東、ロシアを除く自由主義圏の巨大油田の全てが石油ピークを迎えたことと連動していることも示している。 また数年後には石油はそろそろ生産ピークを迎えるということを示している。

石油は非常に便利な資源であり、石油に代わる資源は残念ながら無い。地球は有限であり、人間の成長には限界がある。この結論は、先の「省エネルギーなどの技術によって環境を守ることができるのだ」ということをも否定する、冷徹なことである。すなわち、環境破壊は結局開発の結果なのであり、従来どおりの成長を続けていれば、社会は崩壊してしまう可能性があることを意味する。

CO2を削減する前に有限のエネルギーの消費を減らさなければ、この社会は崩壊する。つまり、低エネルギー社会への変革が必須だということである。

 

パラダイム変化をどう起こすのか?

変革には、社会システムやインフラの変革と、人間の価値観、つまりパラダイムの変革が必要である。米国は広い国土と少ない人口密度のため、社会システムやインフラの変革は日本より容易である。しかし、変革に必要と考えられるもう一つの要素、多様性とは、頑固に自分のポリシーを主張することである。多様性の高い社会において価値観、パラダイムの変革をするためには、自由と平等、チャレンジ精神だけでは十分でなく、ディベートがどうしても必要になるのである。

日本人はその点政治的に初心である。だからこそ、良かれ悪しかれ明治維新、大戦前の軍国主義、大戦後の民主主義といった価値観、パラダイムの変革が簡単に起きたのである。目指すイメージを持った時、現実とそのイメージのギャップを埋めようと創造力が働くようだ。そして思い浮かんだ発想を実行することによって目指すイメージが実現するのである。日本人が低エネルギー社会をイメージした時、現在とのギャップを埋めようと創造力が働くであろう。そしてそれを実行した時、低エネルギー社会は実現する。

我々日本人は政治的に初心であるから、低エネルギー社会をイメージすることは容易であるはずだ。これで価値観、パラダイムの変革は完了である。正しい科学に基づく、全員の会話で築いた低エネルギー社会をイメージすれば、創造力が働き、思いついた発想を実行に移せるのである。国土が狭く、人口密度の高い日本であっても、変革は起こるはずである。

 

まだ見ぬ未来文明を共創する準備はできているか?

しかし低エネルギー社会の姿はまだ分からない。まだ見ぬ未来の文明である。米国の政策は、まさにどのような社会なのかは分からない、まだ見ぬ未来文明への戦略である。米国全体が実験を開始しようとしていると考えることができる。

まだ見ぬ未来の文明は全てのステークホルダーが持っているさまざまな経験を共有し、実行することによって見つかっていくと思う。すなわち、石油ピーク後の崩壊を防ぐにはまず、すべてのステークホルダーが団結する新たなコミュニティーが必要なのである。団結とは、同じ目標を掲げ、一人一人が責任を持って協力し、良いところ、悪いところを勉強しながら行動することである。すなわち未来文明のステークホルダーは、地球に生きている人全員である。低エネルギー社会実現は、その真の意味をステークホルダーが理解し、失敗は成功の素というチャレンジ精神を忘れず実行することによって達成される。

明治維新の時、地方分権制から中央集権国家へと、数年で、無血の革命を完成させた。それだけ日本民族は柔軟性に優れているのである。その特色を生かせば、低エネルギー社会実現は必ず達成すると信じる。

 

低エネルギー社会WGが目指すものーー新しい文明社会の創造へ

低エネルギー社会を実現させるための正しい手段は、世界、国、地域、コミュニティー、家族、個人のさまざまなレベルで、相互作用を繰り返してダイナミックに動く現代においては分からない。

しかし、低エネルギー社会に向かう最善策はある。それは、社会のステークホルダーがそれぞれバラバラに行動するのではなく、団結して成功体験、失敗経験などを情報交換し、科学的根拠に基づくイメージを作り、それに向かうシナリオを協働で作成し、有機的に連携を取りながら行動することである。

特に産業界は、低エネルギー社会のインフラ作りという重要な社会的責任を担う、最も重要なステークホルダーになる。

このワーキンググループ(WG)はイノベーションなどということに留まらず、世界の壮大な実験であり、人類の挑戦でもある。

文明が変わるとき、人間は活性化され、創造的になり、進化する。世界はてんやわんやで、苦境に立たされている状況であるが、逆に人間は逆境の時、創造的になり、進化する。