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イベント報告をアップしました!
石井もったいない学会会長(故人)による講演内容の紹介
3月11日の地震が起き、それ以降東京周辺の会合はほとんどキャンセルになっていましたが、まだ計画停電が行われ、電車の運行も通常より少ない中、常陽新聞新社が絶妙のタイミングと判断し、常陽懇話会3月例会を開催し、石井会長の講演が行われました。
【講演日時等】
日時:3月25日(金)正午~14時
場所:オークラフロンティアホテルつくば
講師:石井吉徳(もったいない学会会長)
演題:「石油文明が終る:日本はどう備える?」
【講演概要】
常陽談話会は常陽新聞新社が主催する勉強会です。会員は土浦市・つくば市を中心とした経営者、県知事、市町村長、大企業の支店長などの方々で、会員数は約150名です。
開催場所のオークラフロンティアホテルによれば、地震後久々の会合だそうです。そのような中、約50名の方々が集まりました。
実際には、参加者は地元の方々なので、集まることはそれ程難しくなかったのですが、むしろご自宅が逗子である講演者の石井会長が、つくばエクスプレスの運行本数が少なっていることもあり、当日来られるか不安でした。しかし問題なく、早めに到着されました。
講演の内容は、常陽新聞3月26日(土)朝刊をご覧下さい。約1時間かけて、ほぼこの内容のことを話されました。
質疑応答で、「江戸時代に戻れとのご指摘か」との質問がありました。石井会長の解答は、「江戸時代まで戻る必要はない。なぜなら1970年代の日本の高度経済成長時代でさえもエネルギーは現在の半分なのですから」、とのことでした。
また、「グローバル化した世の中なので、世界との関係を考える必要があるのではないか」との質問に対しては、「もったいないという精神は欧米にない。欧米の真似ではなく、日本が率先してもったいない精神を実現し、世界にお手本を見せることが重要」とのことでした。
(蛇足)
石井吉徳もったいない学会会長は、もったいない学会の理念に基づくプランBを提言しています(石井、2010)。
日本は明治維新以来、大いなる経済成長を遂げました。特に第二次世界大戦後十数年間は高度経済成長期と呼ばれ、成長率は10%前後という凄まじいものでありました。
しかしその成長も1990年代のバブル崩壊以降はほぼ止まってしまいました。特に2006年以降は負の経済成長であります。現在この傾向は日本だけでなく、欧米も同様です。
なぜ世界の経済が停滞しているのであろうか。それは国際エネルギー機関が発表しているとおり、安い石油の生産が2006年にピークを向かえたためだと考えます。石油メジャーはオイルサンドや深海底油田などの石油を開発し、不足した需要を補っています。
しかしそれらは、開発に多大のエネルギーを必要とし、メキシコ湾の石油流出事故やカナダにおけるオイルサンド開発による地下水汚染などの環境破壊が伴い、またなんといっても価格は高い。そのため、高く、危険な石油を使わざるを得なくなり、経済は悪化に向かっているのであります。
日本、欧米は新エネルギーの開発の政策を打ち出し、経済の停滞を打破しようとしています。日本の政府は、再生エネルギーの開発に努力しているものの、どちらかといえば太陽光エネルギー開発のように技術力によってこの経済停滞を打破しようともくろんでいます。これは従来の社会構造をなんとか維持しようとするプランAです。日本の大企業も政府が打ち出すプランAに追従します。
しかしプランAに拘っていると、安い石油の減少、さらに近い将来の高い石油の減少によって、経済は急激に下降すると我々は予想しています。
明治維新の理念は、富国強兵によって西欧の列強に比肩する国家を築き上げることでありました。この理念は日本全体に受け継がれ、一丸となって経済成長に突き進みました。
石井会長が提言するプランBは、従来型の社会を維持するものではなく、新しい社会を築くプランであります。このプランはオピニオンリーダーに引き継がれ、さらに追従者によって引き継がれ、最終的に社会を動かすステークホルダーへと引き継がれます。
今必要なのは、プランBを引き継ぐオピニオンリーダーであります。それはだれなのか、政府なのか、自治体なのか、大企業なのか、中小企業なのか。今までは、政府、大企業がプランを進め、それを自治体、中小企業が追従するというトップダウンで進行して来ました。しかしプランBについては、自治体、中小企業が中心となるボトムアップでないと動かないでしょう。
もったいない学会低エネルギー社会ワーキンググループの活動として、これからは、中小企業、自治体に、プランBの実践を働きかける活動を精力的に行う計画であります。
2011年2月25日、中小企業家同友会全国協議会(中同協)地球環境委員会において、もったいない学会会員である平沼地球環境委員長のお誘いで、地域・企業における講演会、討論会の開催を提案しました。早速、各地域の中同協で検討を開始していただいています。
常陽談話会における講演会もこの活動の一環です。このように地域と連携し、もったいない学会の理念に基づいた活動が日本に広がることを目指します。
かさま環境フォーラムにおける市民の声
大久保泰邦 (産業技術総合研究所)
2010年2月13日、笠間市の友部公民館で「かさま環境フォーラム~2020年地球温暖化ガス25%削減に向かって~」と題して、講演会が開催されました。
これについてご報告します。
著者は「地球に優しいエネルギー」と題して基調講演を行い、またパネルディスカッションのコーディネーターを務めました。
「かさま環境フォーラム」のプログラムを見る
あいにくの小雪にもかかわらず、参加者は120名以上で、笠間市長の挨拶もありました。パネルディスカッションでは中学生も話題提供をし、エネルギーに関するデータをまとめ、すばらしい発表をしていました。笠間市は政府が掲げた温室効果ガス25%削減の目標達成のために、市を挙げて取り組んでいる様子が分かります。
【基調講演】
著者の基調講演では、石油はすごい力があり、地域で育った文化をなぎ倒し、石油文明を作り上げたこと、石油は自動車や電気だけでなく、衣服や農業にも欠かせないものになっていること、本当の持続社会とは有限資源を使わないこと、を伝えました。
さらに今後の生き方のポイントは、日本の特徴を生かした生き方、現在のインフラを上手に使った生き方、自給自足できる地域作り、楽しく実践、日本古来の「もったいない」の精神が大切なこと、も伝えました。
最後に皆で考えるということで、3Rのエネルギーの観点からの意味、有限資源と持続資源の将来とその和である全エネルギーの将来について話しました。また今の納豆は発泡スチロール容器に入れられているが昔は稲藁に包まれており、石油製品は使っていなかったことを考えると、昔の良い点も考えたい、と伝えました。
【パネリストの報告】
パネルディスカッションにおいては、まず岡嶋宏明准教授(常磐大学コミュニティ振興学部地域政策学科)、常磐大学3年生の佐伯志大氏、笠間中学校2年生の山口莉奈さん、笠間市消費者友の会会長の平倉ヒサ氏、関東電気保安協会の磯野悦也氏が、それぞれの実践例を紹介しました。
岡嶋氏の演題は「茨城における温暖化の現状と対策」です。茨城県における温暖化対策についての紹介がありました。温室効果ガス削減を目標に、エコドライブやバス、鉄道などの公共交通の利用を県民宣言しているとのことです。目標が温暖化ガス削減ですが、実践においてはエコドライブや公共交通の利用ということで、エネルギー消費の削減であります。
(岡嶋氏のパワーポイント資料)
佐伯氏の演題は「グリーン購入~お買い物で環境対策~」です。グリーン購入法の紹介でした。消費者は価格と品質で選んでいましたが、これからは環境を意識した環境負荷の小さい商品を選ぶことが重要との指摘です。
(佐伯氏のパワーポイント資料)
続いてプログラムとは順序を入れ替え、笠間中学校2年生の山口さんが「私たちにできる環境のこと」について話してくれました。家庭での冷暖房の温度調節や節水、節電、エコバックの活用などでどのくらいの節約になるか数字を調べ上げ、それをペーパーにまとめて紹介してくれました。
(山口さんのPDF資料)
続いて、平倉氏から「家庭でできるCO2削減について」の話です。環境省が出している家庭でできる温暖化対策についての紹介がありました。環境省が示す、家庭でできる10の取り組みをベースに家庭での実体験談と啓発のボランティア活動について話していただきました。
(平倉氏のPDF資料)
最後は磯野氏から「電気で省エネ」についてです。電気は毎日必ず使っているのですが、それをリビング、ダイニングキッチン、洗面書・浴室・トイレ、夏のエアコンに分けて、それぞれ絵で分かりやすく紹介していただきました。
そして少しの工夫で、家計にどれだけ節約できるのか、数字で示してくれました。参考資料は以下のサイトにあります。
ホーム > 電気の安全情報広場 > 省エネ情報館
http://www.kdh.or.jp/safe/energy_saving/index.html
(磯野氏のパワーポイント資料)
【パネルディスカッション】
次にパネルディスカッションを行いました。事前に届いた質問についてパネリストから答えていただきました。その質問は「大学ではどのような考え方で、どのようなことを実践していますか。また学生諸君は積極的に取り組んでいますか。」でした。
岡嶋氏からは、常磐大学では茨城県の温暖化対策に従って努力しているとのことでした。
常磐大学の学生である佐伯氏は、自分自身はエネルギーの節約に努力しているが、友人の様子を見ているとそうとばかりは言えそうにないとのことでした。
次にコーディネーターである著者から、パネリストへ「言うは易く、行うは難し、ですが、実践するにあたっての苦労談がありましたら教えて下さい」と質問しました。
家族みんなで取り組んでいるので、実践できていますとか、地域で運動をしているので、できていますなどの意見がでました。一方、家族の中で亭主が実践できない、との意見もありました。
【フロアからの質問】
フロアから質問を受けました。その中で、「温室効果ガス25%削減に対して政府は何をしているのか」と、強い口調の質問を受けました。
温室効果ガス25%削減は、昨年12月のコペンハーゲン会議で、鳩山首相が掲げた数字です。結局国際的法的拘束力をもたない合意(コペンハーゲン合意)に終わったので、25%削減は国際的には言っただけということになりました。
しかし、国内に対しては25%削減の旗を下ろしていません。国際的な信用を失わないためにも、国内で実施しないわけにはいきません。
具体的な達成方法はこれからということになります。温室効果ガス削減は、国際競争力を向上させる道具として有効です。この「競争力」というのは実は市民が築き上げたものです。ですから、笠間で取り組んでいるような、市民一人一人の努力が重要なわけです。著者からは「笠間市の皆様のような市民一人一人の努力が重要です」と答えました。
また太陽エネルギー、風力などの自然エネルギーの開発はなぜ進まないのか、の質問がありました。
著者からは、石油が安いためにコストで勝てないことが大きいこと、またモノを作る、運ぶ度にエネルギーを使うので、複雑なもの、ハイテクには大量のエネルギーを使うことになり、自然エネルギーの多くはハイテクであるためエネルギー効率が悪いことを伝えました。
そして、これからの社会は、今ある道路や鉄道を有効に使って、シンプルな生き方が重要であることも伝えました。
【パネル展示】
当日はフォーラムと並行してパネル展示と電気自動車の展示がありました。パネルでは、市民の活動を紹介するパネルや、中学生の研究の発表のパネルが展示されていました。どれも立派な内容でした。
4時10分終了予定だったのですが、結局大幅に時間を超過し、5時前に終了しました。
フォーラムのフォローアップ
【音力・振動力発電】
フォーラムの開催前にいくつかの質問が届いていました。その中で平野光昭氏から著者に対して質問があったのですが、当日時間が無く、答えることができませんでした。質問はエネルギーを考える上で、本質をついた質問なので、ここで答えます。質問は以下です。
(質問)音力・振動力発電について
慶應義塾大学や企業では、研究開発がすすんでいるようですが、原理はどのようなものでしょうか。また、将来性は如何でしょうか。
通勤発電道路、お買い物発電道路、ウォーキング発電道路などができて、利用者はエコポイントがもらえるなんて夢のようなことは、考えられませんか。
(答え)
振動力発電とは、人が歩く時に起こる振動や、自動車や汽車が走る時に起こる振動など、世の中の様々な振動を電気に変えるシステムです。原理はスピーカーの逆です。
スピーカーは、電気信号を振動板と呼ばれる膜面を通じて物理振動に変換し、可聴音として発するのが基本原理ですが、仕組みを逆にすれば、振動を電気信号に変換することができます。
床の上を歩くと発電がする「発電床」や、自動車が道を走る事による発電の「道発電」や、家庭の電化製品のリモコン自体を発電機にして、つまりボタンを押すことで電気を発生させ電池の必要の無いリモコンなど・・・
これ自体、無駄に失われているエネルギーを利用しようという試みで、すばらしいことです。将来、いろいろなところで応用されると思います。
しかし、振動力発電を得るためにわざわざ自動車を走らせたり、人が歩いたりしたらどうでしょうか。
これはエネルギーとは何かを知る上で本質的な問いかけです。
自動車を動かすにはエネルギーが必要です。自動車を動かすときのエネルギーとそこから得られる振動力発電によるエネルギーとはどちらが大きいでしょう?
答えは、自動車を動かすエネルギーの方がはるかに大きいのです。この場合、自動車を運転している人にはエコポイントは与えられません。なぜなら自動車を動かす方がエネルギーを使うからです。必要がなければ自動車を運転しない方がエコになります。
お買い物発電道路、ウォーキング発電道路の場合は、街路灯を使わずにジョギングなどするのであれば確かにエコなので、エコポイントを与えたいですね。
しかし、人が歩くときもエネルギーが必要です。人の場合、食事からエネルギーを得ています。人が歩くことによって消費するエネルギーの方が、振動力発電によって得られるエネルギーよりはるかに大きいことになります。
つまり、エネルギーから、それより大きいエネルギーを得ることはできないということです。 これは熱力学の第2法則である、エントロピー増大則であります。
【フォーラムは刺激的であれ!】
当日参加者にアンケートを書いてもらいました。基調講演、パネルディスカッションとも80%以上の方が「とても良かった」、「良かった」でした。
個別の意見でも「基調講演は良かった」、「平倉氏や磯野氏の話は、市民レベルで良かった」、「中学生の発表に心うたれた」、「自分の考え、生き方に刺激を受けた」など好評な意見が多数でした。
また「日本の森林資源を見直そう」、「総エネルギー量は確実に減少する、さて自分は何をすべきか?」や「リサイクルにもエネルギーを使うことを知り、物を作る、作り直すにも必ずエネルギーが必要であると分かりました」との意見もありました。一方で「基調講演が難しかった」、「面白くない」など、批判的な意見もありました。
パネリストの話は省エネルギーに対する具体的な行動の指針についてでした。それに対して著者の話はエネルギーについての理論です。著者が反省すべきは、やはり両者にかなりギャップがあり、それを十分埋められなかったことです。今後このギャップを埋める努力をしたいと思います。
とは言うものの、「難しい」と感じたことは、真実を考えるきっかけを与えたことであります。また賛否両論、さまざまな意見があったわけで、結局今回のフォーラムでは、多くの方が刺激を受け、心うたれたり、面白くないと思ったりしたわけです。これこそフォーラムも目的であり、大成功であります。
コラムをアップしました!
オバマの脱石油政策
2010年4月15日
福田正己 (アラスカ大学)
昨年、オバマ大統領はGMを安楽死させた時に、新規のGMでは電気自動車を生産すると声明を読み上げた。またハイブリット車の開発は行わないとも述べた。
大統領就任直後にはDOE長官にUCBerkley教授のS.Chowを長官に指名した。ノーベル物理学賞受賞者のChow長官は就任直後原発推進を確約し直ちに全米11カ所の新規申請を認めた。
いずれもアメリカが脱石油を目指す方針を鮮明にした。石炭火力の効率化も宣言し、オバマ大統領自身がTVコマーシャルでクリーンコールを歌い上げた。
また、長距離輸送には鉄道を利用する方針を決定。西海岸と東海岸を縦断する新幹線構想を着々と進め、日本のシステムあるいはヨーロッパのシステム導入を目指す。鉄道も電気で動く。
さらに、より効率的な電力供給システムを構築すべくスマートグリットシステムの実用化を推し進めている。そのノウハウで全世界のシェアを独占しようとしている。
原発推進には自然保護団体もCO2排出削減の立場から容認に転じている。ジャクソン環境省長官は二酸化炭素は人体に有害なガスであると認定し、その規制を強化すると発表した。これも原発推進に役立っている。
オバマ政権発足以来、明確に脱石油依存と電気エネルギーへの依存シフトを目指している。そのためには自動車依存の現在のアメリカのライフスタイルの変革をも迫っている。GMの倒産はもはや自動車はアメリカの基幹産業ではあり得ないことをはっきりとまた象徴的に示した。
不要な混乱を防ぐために、多分オイルピークとははっきりと宣言しないであろう。しかし、先月のNational Geographic Channel では「石油の無くなったアメリカ」という長時間特別番組でその危機感を煽っている。その内容は衝撃的なものであった。次第にその危機感は浸透しつつあるようだ。着々と次なる対策(電気へのシフト)も講じつつある。
2010年4月1日
福田正己 (アラスカ大学)
昨年アラスカ大学でメタンハイドレイトに関するワークショップがアラスカ大学で開催された。メタンハイドレイトは夢のエネルギー源ともてはやされて久しい。しかし、一向に進展の兆しが見られない。なぜなのかを確認すべく、研究の現況を知るよい機会と思い参加してみた。
アラスカ大学の鉱山学科ではかなりの人員を配してメタンハイドレイトの研究を行っている。それだけ研究費が集まっているという訳だ。スポンサーはエネルギー省(DOE)やオイルメジャー、それに地盤探査会社(たとえばシュランベルジャー社など)で潤沢な研究費が行き渡っているようであった。
深海にあるかもしれないメタンハイドレイトはその掘削・開発は技術的に困難が予想されている。一方永久凍土地域では存在の可能性がある深度は数100mなのでより実現が近いと思われている。地表面の年平均温度が-10℃で一定の地殻熱量を仮定し、上載加重と平衡地中温度条件から、メタンハイドレイト安定領域を計算すると、深さ約200m-800mとなる。この深度領域では天然ガスは固体状態、つまりメタンハイドレイトになっている。
ではどのようにしてメタンハイドレイトの埋蔵を検出するか。岩盤の空隙に固化したメタンハイドレイトは完全に固化せず、一部は気体のままに保たれる可能性がある。こうした状態を地震探査で検出するのは大変難しい。
つまり、正確に永久凍土中のメタンハイドレイトを探査する手法はまだ開発されていない。実験室でこうした部分的に固化したメタンハイドレイトを再現し、高分解で弾性波速度を測定する場合には、よほど低温にするかあるいは高圧条件を設定する必要があり、困難さを伴う。
そこで常温と常圧下で部分融解している凍土を使って類似実験を行った。凍土中には0℃以下でも凍結しない水が存在している。土粒子表面に吸着されている水は、その化学ポテンシャルが低下するからである。
低温研にいた頃に、石油探査会社との共同研究で、部分融解した凍土中を伝播する弾性波速度の変化を精密に測定した。シングアラウンド法を用いると弾性波速度を5桁から6桁の精度で測定できる。また温度も±1/100℃で制御可能な低温室をあらたに製作した。
実験結果は満足できるものであったが、その解析結果を一般化するモデルを構築できなかった。あまりにも複雑な構成要素であり、理論化することをあきらめざるを得なかった。その後同様な課題を抱える火山学分野の研究者との交流から、地下のマグマ位置を地震波で検出することの困難さと共通することを知った。アラスカ大学でのワークショップでは同じような実験と同じような問題が残されていることがわかった。
もし永久凍土中にメタンハイドレイトの存在が確認されたとして、それをどのように汲みあげるか、これもかなり難しい課題である。ボーリングしてメタンハイドレイト存在深さに到達しても、ボーリング孔の周辺しか応力解放せず、気化する領域は広がらない。
そこで地上から高温の液体を流し込んで、周辺地盤を昇温させて気化領域を広げる必要がある。そのための室内実験結果が紹介されたが、とても実用化にはほど遠い内容であった。
ワークショップ参加の印象は、メタンハイドレイトの探査から掘削までの技術はあまり進展していないということであった。その割に潤沢に研究費が行き渡っていた。
出来もしない技術開発を掲げて、研究費を獲得する風潮はなにも温暖化研究だけでなく、こうしたメタンハイドレイト研究でも同じである。技術的に困難だから研究しないというわけではない。ある程度の見通しがあっての研究であればよいのだが、アラスカ大学でのメタンハイドレイト研究は、やはり潤沢な研究費がそれを駆動する要因に思えた。
純粋科学と応用科学(あるいは工学)との違いを考えさせられた。かといって研究費獲得なしには研究の進展はあり得ないし、大いに悩む点ではある。
一昨年の日本の研究費配分が性急な成果を求める分野に偏る傾向にある。すぐには実用化に結びつかない基礎研究が軽視されるのは困ったものだと思う。