大久保 泰邦
スイスは一人当たりの GDP が日本以上で、裕福な国である。
スイスのカントンは、それぞれ人間集団の基本生活を営むための要素を有すバイオリージョンとなっている。
スイス成立は、自立したカントンが一つ一つスイス連邦に加盟していったことによるもので、その意味でスイスは真の連邦国である。
自立したカントンの社会を見ると、低エネルギー社会に必要な要素がたくさん見られる。
それは、
(1)地元の地勢を生かしたエネルギー生産、(2)小都市とその周辺の農業地域、(3)地元の特産品、(4)放牧、木材生産ができる山地、(5)畜産と作物農業の一体化、(6)都市内には太陽光や風などの自然エネルギーを有効利用できる低層ビルと住宅、(7)都市内には路面電車と自転車道路が完備、(8)輸送、移動のための隣の地域につながる鉄道、(9)機械による大量生産でなく、人手による小規模生産、である。最後にもっとも重要な要素は、(10)自分の周りの問題は、自分で考え、自分で解決する自立心である。
スイス人にはこの自立心がある。そのためエネルギーや食料をなんとか自給しようと努力する。
スイスは穀物栽培の適地が少なく、輸入せざるを得なかった。昔、外貨を稼ぐ産業が無かった時代、他国のために戦う傭兵が産業となった。自分の血で食料を確保したのである。この歴史がスイス人の自立心を育んだ。
スイスでは農民と工業労働者が混合した形態をとったため、小規模工場が多数発生し、大量生産ではなく高度な技術による手作りの工業が発展した。
一人当たりの二酸化炭素排出量は日本の約半分で、少ない石油消費で大きな収入を得る工業生産をしている。
スイスは一次エネルギーの確保が難しくなっても、現在の生活を維持できるであろう。スイスを参考に、これからの日本の低エネルギー社会を考えて行く必要がある。日本では江戸時代の藩がバイオリージョンであった。
しかしそれは幕府によって強制的に作られたものであり、スイスの市民の意思で作り出したバイオリージョンと異なる。
日本の歴史を振り返ると、自給自足ができるバイオリージョンを作ることは難しいといえる。
投稿者: | 大久保 泰邦 |
Category: | 研究ノート(WEB学会誌) |
日付: | 2012年11月12日 |
公開日: 2012年11月12日