太陽電池

太陽電池とは、太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機器を指します。

英語ではSolar cell、あるいは光起電力を意味するPhotovoltaic (PVと略されます)と呼ばれます。

一般的な発電機器と違い、一度設置すると燃料を供給する必要がなく、自然エネルギーである太陽の光さえあれば発電をし続けます。(言ってみれば太陽の光が燃料の位置づけになりますね。)

更には一度電池を作ってしまえば、発電中に地球温暖化ガスの発生もない、極めてクリーンなエネルギーです。

光がエネルギーをもつ粒子(光子)である事は19世紀から分かっていました。
20世紀に入り、相対性理論により理論的には太陽電池が出来ることが予測されていましたが、現在のような実用的な太陽電池の基礎となるものは1950年代にアメリカのベル研究所が発明したものがその原型となっています。

太陽電池の発電素子は半導体で出来ています。半導体は普段は電気をほとんど通しませんが、p型と呼ばれるもの(内部で電子が不足気味の半導体)とn型とよばれるもの(逆に電子が余り気味の半導体)を接合すると、電気が一方向によく流れる性質ができます(いわゆるダイオードですね)。

これだけでは電気を通す「弁」の機能のみなのですが、太陽電池では光によってこの弁が今度はポンプのような機能を持つようになり、光エネルギーによってどんどん電気をくみ出す仕事をします。

光の当たった半導体の表面には電子(マイナスの電荷)が泉のように湧いた状態になるのです。逆に裏側には電子の反対の正孔(プラスの電荷)が集まっている状態になっていて、表面と裏側にそれぞれ電極をつけると、乾電池のようにある電圧を発生する電池のようになると考えれば分かりやすいでしょうか。(実際にはポンプのように可動部はありません、また電池のように電気を貯めておくことは出来ないので、あくまで例えと理解してください。)
太陽電池の性能については太陽光の持つエネルギーを100%としたときの電気の発生量が何%かで主に評価されます。
これを光電変換効率(あるいは単に変換効率)といいます。

現在主流の太陽電池は結晶シリコン系と言われるもので、パソコンのCPUやメモリーに使われる半導体と同じシリコンウェハー(薄板)を使用しています。シリコンは地球上に2番目に多い元素ですが、高性能の半導体に使われるシリコンはイレブンナインと呼ばれる99.999999999%の(9が11個つながる)純度を持つ、いわゆる高純度シリコンです。
太陽電池では多少低い純度でも製造可能と言われていますが、中間グレードの高純度シリコンはほとんど生産されていなかったため、半導体用に生産されたシリコンの規格外品が主に使われてきました。
最近は太陽電池の生産量も増えてきており、この高純度シリコンが足りないという状況になっています。

主な太陽電池の種類
太陽電池の種類には数多くのものが存在します。
図1は太陽電池の種類を構造面から分類したものです。
太陽電池には大きく分けて、バルク系(インゴットなどのかたまり(=バルク)から切り出して造るもの)と薄膜系(メッキのように基板の表面に薄膜層を形成するもの)の二つがあります。
現在主流となっているのはバルク系の中の、結晶シリコンタイプですが、その中にも単結晶シリコンタイプ、多結晶シリコンタイプといった種類があります。
単結晶シリコンタイプは歴史も古く、かつ性能も高い(変換効率で14~17%)のですが、コストが高くつくという難点があります。
多結晶シリコンタイプは単結晶でコストがかかっているシリコンインゴットの引き上げ工程(有名なチョクラルスキー法です)を経ずに、溶融した高純度シリコンを鋳型で固めて結晶化させ(鋳造法と言います。この結果単一の結晶ではなく、多くの結晶が寄せ集まった多結晶になります)、これをピアノ線を使用したワイヤソーでスライスしてウェハーを製造します。最近は単結晶に近い性能(変換効率で13~15%)を出せるようになっています。
その結果、コスト性能バランスから、現在最も多く製造されているタイプです。
これらバルク系シリコンの特徴は良い性能を出せる代わりに高価な材料であるシリコンを多く使用することが挙げられます。
従って今後の太陽電池の普及に最も重要といえるコストダウンが進みにくいという難点があります。

これに対して、もう一方の薄膜系は、基板(ガラスやステンレスなど)の上に非常に薄い膜を形成するため、高価な材料の使用量を従来の1/100以下程度に抑えることが出来ます。
このため、薄膜系はアモルファスシリコン太陽電池が中心でしたが、20年以上も前から将来技術として研究開発されてきました。
ここ数年は結晶系シリコン太陽電池用原料の不足問題から、新しい薄膜系太陽電池や有機材料を使用した太陽電池など百花繚乱の状態になっています。
薄膜系の代表技術としてはアモルファスシリコンタイプが挙げられます。
シリコンの原料ガス(シラン系ガス)をプラズマ反応で分解し、非晶質(結晶構造を持たない=アモルファス)の薄いシリコン層を形成します。
材料の使用量は少ないのですが、性能面で結晶系の約半分程度(変換効率で6~7%)しか出せないため、広く普及することはありませんでした。
最近では、太陽光のスペクトルの全域を吸収するために、2重(タンデム)、3重(トリプル)に積み重ねる積層化という手法で、青色の光はトップセルであるアモルファスSi太陽電池で、緑から赤色の光はボトムセルである多結晶Si薄膜太陽電池部分で吸収するというように役割分担することで、性能向上を図った技術が実用化されようとしています(変換効率で10%~11%)。

同じく薄膜系ですが、現在開発が進み市場に新たに出てこようとしているものにCISと
呼ばれる太陽電池があります。これは従来のシリコン系太陽電池とは大きく異なり、非鉄金属の銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)、硫黄(S)、ガリウム(Ga)をミックス(合金化)して作られます。銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)の元素の頭文字からCISと呼ばれます。
この太陽電池は太陽電池の材料による分類では化合物系に属します。この材料系では、GaAs系の宇宙用太陽電池のようにバルク系は結晶シリコンの3倍位高い性能が実現されています。
使用する材料がシリコンより格段に高価なため、宇宙用などかなり特殊な用途以外はコスト面で折り合いません。
この材料系は集光型太陽電池分野で最近注目されています。
CISの変換効率は現状11~13%で、その本来の性能をまだ我々人間が引き出せていません。今後更に向上すると期待されています。

その他にも新しい技術がどんどん開発されています。
例を挙げると球状シリコンタイプや色素増感型と呼ばれるものです。

球状シリコンは従来の結晶シリコンと同じ原理で発電しますが、使用するシリコンをウェハーではなく、直径1mm程度の小さな球状にすることによりシリコン使用量を削減するというものです。ウェハーを作る際にはインゴットをワイヤーソーと呼ばれるのこぎりでスライスしますので、通常でも1枚ウェハーを作るのに1枚分の切り粉が発生します。
球状シリコンは切る工程がなく、高温で溶融したシリコンを真空中で自由落下させ球状に加工しますので、シリコン使用量が従来の1/5程度に抑えられるというものです。
色素増感型は今までの太陽電池と全く異なり、酸化チタンの光活性特性を利用して、イオンのような電気反応を起こし発電させるものです。
光の吸収をよくするために特殊な色素を入れて感度をよくしているので色素増感型と呼ばれます。
きわめてシンプルな製造方法で出来ると言われており、低コストで製造できると期待されていますが、現在まだ変換効率が低いこと(実用的なもので約5%)および屋外使用でのUV光に対する耐久性などに問題があり、これらの克服を目標とした研究開発の真最中です。

taiyoudenti

太陽電池のペイバックタイム(EPT)とEPR

太陽電池はクリーンなエネルギーと冒頭に書きましたが、本当に環境に優しいものなのでしょうか?
これをEPT(製造時に必要なエネルギーを何年で回収できるかを示す指標。
詳しくはエネルギーペイバックタイムの項を参照)やEPR(取り出せるエネルギー全量を取り出すために必要としたエネルギーで割った値。同じくEPRの項を参照)の面で評価すると、最近の太陽電池ではEPTでは2年から4年で、この期間で製造時にかかったエネルギーを回収できるとされています(この期間以降は完全にクリーンなエネルギーを供給し続けることになります)。
EPRに換算すると2~8程度と考えられます。
まだコストも高く普及が全く進んでいなかった時代の太陽電池は、製造にたくさんのエネルギーが必要(特にシリコンの高純度化とインゴット製造の工程)とされていましたが、使用するシリコン量はここ10年程度でおよそ半分程度になっており、さらに変換効率の向上や、工程の効率化で製造エネルギーも半分以下になっています。

一方で耐用年数は初期に設置された太陽電池で30年以上の稼動実績が出ており、以前10年程度と考えられていた寿命がもっと長いことが証明されてきています。
最近のものでは、30年以上持つことが前提で設計されています。(当用語集のEPRの計算では、現時点で確認されている20年を用いています。)

これらの値は現在主流の結晶シリコン系太陽電池での値ですが、新技術を用いた太陽電池(特に薄膜系)では製造エネルギーが従来型の半分程度に削減できると言われていますので、EPTでは1~3年程度、EPRでは15~20程度が実現されるであろうと予測されています。
加えて、以上の値は日本における日射量を前提に計算されていますが、より日射量の多い南欧諸国、アメリカの西海岸等でかなりの量の太陽電池が設置され始めています。
このような地域では日本の1.5倍程度の発電量が期待できるため、EPTでは1年未満、EPRでは20~30以上となります。以上から、やはり太陽電池は究極のクリーンエネルギーであると言えるでしょう。

少し複雑になりますが、EPTの計算式を示すと、以下の通りとなります。

EPT(Energy Payback Time)
EPT=入力(電気としての投入エネルギー+化石燃料としての投入エネルギー)÷
出力(年間に発電される電力エネルギー)
Ie : 電力としての投入エネルギー
If : 化石燃料としての投入エネルギー
Oe : 発電される電力エネルギー/年

電力とエネルギーの換算係数 :
1kw =0.86Mcal

但し、どれだけの二酸化炭素の排出を抑制出来るかの観点で換算係数を出すと、
1kw =2.25Mcal となります。

計算式は、
EPT = [Ie(2.25)+If ] / [Oe(0.86)] EPRは、取り出せるエネルギー全量を取り出す為に必要としたエネルギーで割った値なので、耐用年数を20年とすると、
EPR = [Oe(0.86)×20 ] / [Ie(2.25)+If ] となります。

付記
太陽電池のEPT及びEPRの計算において、NEDO及び独立行政法人産業技術総合研究所 太陽光発電研究センターでは、当学会とは異なった方法を採っております。
太陽電池を製造するのに必要な電力エネルギーをCO2換算で熱量に戻している点では当学会と同じですが、太陽電池が出すエネルギーについては、当学会では発電される電力エネルギーをそのまま使うのに対し、NEDO及び太陽光発電センターでは、CO2換算で発生するエネルギーを捉える方式を採っている為、EPTはその分短くなり、EPRは高く計算されます。

参考まで 以下にその計算式を記します。
EPT = [Ie(2.25)+If ] / [Oe(2.25)] EPR = [Oe(2.25)×20 ] / [Ie(2.25)+If ]